この案件記事を投稿することを少し迷ったのですが、都心の建売住宅の実体レポート、として挙げます。
荒川区の某不動産会社様より、300㎡強の敷地を出来るだけ多くの区画に切り分けて建売戸建て住宅を作りたいとご相談がありました。
建築条件としては、以下。
・カーポート1台
・木造準耐火構造
・3階建て
・3LDK~4LDK(全て違う間取り)
・1住戸当たりの建物建設費は1000万円~1200万円
開発事業を計画するにあたって、まず気を付けないといけないのは、
開発する土地の面積が500~1000㎡(自治体による)以上だと開発許可申請が必要となり、
場合によっては単純に分譲できず公共的なスペースを作るなど規制が多くなること。
切り売りする土地の区画面積の下限を決めている自治体が多いこと。
設計者がそれを知らないと不動産会社に対して実現不可能な図面を渡してしまい、
その図面を基に採算ベースに乗せた計画をすることで、大きな損害を与えることになってしまう可能性があります。
設計事務所の信頼性が落ちることは勿論、ことによると損害賠償案件にもなり得るのです。
更に言えば開発許可申請は相当手間暇がかかるので、設計報酬を安請け合いして大損する可能性もあり得ます。
(開発後1年以上の間隔が空けば売却可能とかなんとか、といった不動産売買側の視点もありますが
法的根拠がない曖昧な取引行為なので、ここでは触れません。)
さて今回敷地のある荒川区では、開発許可が必要な敷地面積は500㎡以上なので、300㎡の土地は開発許可に掛かりません。
最小区画面積は荒川区建築基準法施行規則を見てみると、60㎡とありますので、普通に考えると300÷60=5区画です。
問題は各敷地の道路に対する間口(接道する幅)がどれだけ取れるかですが、
一般的には、図のように車を置いてその脇を人が通るにはだいたい3.4mほどは必要で、
更に隣棟間距離を民法第234条第1項で規定する距離の境界線から0.5mx2を確保し、
壁の厚み0.2mx2を考慮すると最低でも敷地間口は4.8mは必要になります。
今回の敷地、4.3m程しか取れません。0.5mどうするか。ここが一つのポイント。
隣の土地が同一所有者(不動産会社)であれば、販売するタイミングを合わせられることに注目し、
民法第234条1項に隣棟間が50㎝に満たない場合の但し書きとして
「ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。」
とあるので同一所有者なので損害賠償も何もない、ということになります。
あとは、技術的に建築可能なスペースと、窓が向かい合わせにならないなど最低限のプライバシーの保護を考慮してプランを作れば
あら不思議、グレーゾーンで民法上の隣棟間距離問題を回避できることになってしまうのです。
隣棟間は排水などに使う最低限のスペースで計画すれば0.25mずつで可能です。
つまり境界線からそれぞれ0.5mずつ離すところを、0.25mずつとすれば単純に0.5m縮められます。
建設着手後1年経って販売すれば民法上も解消。
不動産会社が一斉に隣接する数戸を計画販売するメリットがこういったところにあり、
都心の一等地で1敷地多くなるかどうかで売上が数千万円変わるので、こういったノウハウが設計者に求められるのです。
決してこの考え方を推奨するわけではありません、
建築家としてはむしろこういった啓蒙はすべきではありませんがこれが現実なのです。